インタビュー
この世で一番難しい謎を解き明かしたい
大学院博士課程後期1年目の8月から半年間、インターンシップでNASA(米航空宇宙局)Ames Research Centerに滞在した。「NASAで働いている人たちはみんなNASAのことがすごく好きで、そういう雰囲気の中で研究できるのは本当に楽しかった。自分もNASAが好きなので、大好きな研究機関で研究できるのは、とても幸せなことなんだなあと実感しました」と話す。
高校では生物を選択していなかったが、大学で本格的な生物の講義を初めて受けて「生命の神秘にときめいた」そうだ。小さな細胞の中で物凄く複雑なことが起きていて、しかもそのほとんどがまだ分かってない、そんな生命の不思議に惹かれた。
もともと高校生くらいの時から、「究極なことをしたい」という思いがあったという。「この世で一番難しい謎を解き明かしたかった。そう考えたとき、これは生命の起源を解明するしかないと思って」。
生命の起源は、宇宙にもつながっている。NASAが提唱した宇宙生物学(Astrobiology)は、地球の生命の起源、地球外生命の探査、火星移住など人類の宇宙進出を扱う学問。地球外に生命が存在しうる条件や、地球外の生命がどのような物質によってできているか、などを知ることは、地球における生命の起源を知ることにつながっている。「生命の起源を研究したいと思った時に、やっぱりこの学問を作ったNASAに行かないと駄目だなと思って、NASAに行きました」。
夢物語を夢物語と思わず真面目に考える
学部生の頃から少しずつ、NASAへの道を切り開き始めた。学部4年の時、所属する研究室とは縁の薄い日本宇宙生物学会に一人で参加してNASAとつながりそうな研究者を探し出し、さらに関連研究者を数珠つなぎに紹介してもらって、NASAの現役研究員にたどり着いた。さらにNASAの大物ディレクターが国際会議で日本を訪れた時に面会して直接交渉もし、3年がかりで、インターンシップの実現に自力でこぎ着けた。「夢物語を夢物語だと思わず真面目に考える」がモットーだ。
一つのことを突き詰めるのが得意な性格。NASAに行って「体がでかい人の言うことにはなんだか説得力がある」と感じたことがきっかけで、現在、ウエイトトレーニングに打ち込んでいる。日々、食事やトレーニングメニューを考え、その最適な答えを見つけていく。続けることで結果が目に見えてくることが「毎日すごく楽しい」という。「自分の体を使った研究みたいなもの」だそうだ。
一方で、「Change is the only constant」という言葉も心に刻む。一つの考え方にとらわれず、変化していくこと、変化を受け入れることも重要だと考えている。変化なくして進化はないからだ。「この考えは元々の性格の真逆であり、僕が大学院生活を通して得た最も大きなものだと思う」。

NASAのTシャツ
地球外生命体の発見で「地球は平和になる」
大学院では、極少数の種類の分子で構成した「人工細胞」を用いて、地球の初期に存在したと考えられるような原始的な生命の進化を探っている。単純な自己複製をする人工細胞でも様々な環境に適応するようになったり、進化していったりする機構がわかりつつある。理論で予測されていた進化のメカニズムを裏付ける実験にも成功した。次は、理論でまだ読めない進化の未知の世界を、実験から解き明かすことをねらっている。
もっと広い世界を見たいからと、学位取得後は海外のアカデミアで研究を続けることを考えている。「NASAは一回行ったので、次は他のところを見てみたい」。生命の起源の解明をメインテーマに、将来的にはサブプロジェクトとして地球外生命体の発見にも携わりたいという。
この先10年ほどで地球外「微生物」は発見されると予想しているので、できれば地球外「知的」生命体を見つけたい。「それが見つかると、何が変わるかも予測できないぐらい、色々変わると思います。おそらく地球と言う単位で人々がまとまって、地球は平和になると思うんですよ」。
日本ではまだマイナーな、宇宙生物学を盛り上げていきたいという思いも持っている。現在、実際に慶応義塾大学の先端アストロバイオロジープロジェクトで学部生に宇宙生物学を教えているそうだ。
2016年12月インタビュー