第一期生

古林 太郎ふるばやし たろう

生命機能研究科 バイオ情報工学専攻

東京大学理学部出身

Furubayashi, taro

インタビュー

研究者と漫画家の共通点

大学院の研究では、細胞をつくることを目指している。最近になって、趣味で漫画を描き始めた。「自分は新しい何かを創り出すことを楽しいと思う人間なんじゃないかと、最近になってようやく気づきました」と話す。細胞をつくるのも漫画をつくるのも、頭の中にある、自分が面白いと思った概念に形を与えて外に出すという点では同じ。外に出すことで他の人からフィードバックが返ってきて、「どんどん新しい概念や人がつながっていくことが面白い」という。

漫画を描いて公開したことがきっかけで漫画家の人たちと知り合い、彼らと交流する中で、研究者との共通点にも気が付いた。どちらも、「自分が興味を持ったものを、真剣にものすごい深さで掘っていく」オタクなのだ。また、漫画家たちが、自分の土俵にものすごい力で色々なものを持ってくることに驚いたそうだ。例えば、全く関係のない物事でも、自分が好きなキャラクターに結び付けて語り始める。「多少離れた内容でも、無理やり自分の興味に結びつける考え方は、サイエンスでも他の仕事でも、何でも使える強さだなと思いました。だから今、もっと強いオタクになりたいなと思っていて」と笑う。

生命をつくる研究

過去の経験や蓄積に縛られず、新しいことにためらいなくゼロから挑戦できる性格。「やらずに後悔するより、やって後悔しよう」をモットーにしている。

大学の学部は、生命系に関心があって東京大学の理科2類に進んだ。しかし授業で学んだ分子生物学的な考え方に興味を持てず、一度は進路を文学部に変えて、内定までもらった。「生き物は、つかみどころがなくてダイナミックに変わって進化する不可思議なもの。分子生物学はそれをばらばらにして、個々の分子を調べる。それでは自分は分かった気がしないと思いました」。しかしちょうどその頃、偶然テレビで見た上田泰己・東京大学教授(当時は理化学研究所)の番組をきっかけに「細胞を創る」研究を知り、すぐに文学部の内定を取り消してもらって理学部に戻った。生きていないものを組み合わせて生き物をつくるという、分子生物学とは逆の手法があるということが新鮮だったという。「生きていないものを組み合わせていった時に、どこで生きている状態が現れるのか、それを自分でつくりながら発見できるかもしれない、そんな研究を知ってワクワクしたんです」。

大学院からは、大阪大学の生命機能研究科で、人工細胞を進化させる研究をしている。実験と並行して理論の研究者とも共同研究を進め、進化の新しいルールを見いだしたいと考えている。

適当さと柔軟さ

HWIPの融合研究では、生化学と通信工学の境界領域である分子通信の研究にも取り組んでいる。分子通信の提唱者の一人である生命機能研究科の中野賢・特任准教授に話を持ち込んで、自分からこの融合研究を始めた。生物は、例えば虫のフェロモンのように、分子を交換して通信をしている。分子通信の研究は、例えば体の中に応用して、従来のドラッグ・デリバリーよりも、より複雑なことができるようにすることなどが視野にある。情報の分野で分子通信が注目を集めるようになったのはごく最近で、まだ新しい研究分野だ。実験例はまだ少なく、情報系の雑誌に論文をいくつも載せる成果を挙げた。「生物系からのアプローチで、いい突破口になれたらと思っています」。

「適当じゃないと生き物は成り立たない」と話す。例えば、生物のもつ分子をやり取りする通信の仕組みは超省エネルギーだけれど、分子にはゆらぎがあるため、ミクロな世界ではそのゆらぎが様々な「失敗」を引き起こし、応用するには制御が難しい。しかし実際の生物では、失敗をカバーする柔軟な仕組みが備わっており、この「適当さ」があるからこそ進化も起こせる。この適当さと柔軟さが生き物の難しさであり、良さでもあると感じている。

人生の最大目標を、「人生を楽しむこと」と設定している。自由な発想と行動でやりたいことを実践し、自分自身が日々を楽しむと同時に、「世界に楽しいことが増えて、人生を楽しめる人が増えると嬉しい」という思いを持っている。「昔は医者のように直接人を助ける仕事に就くことを考えていましたが、最近は自分が楽しいと思えることを全力で追求して、その楽しみを世の中に広げていく方が性に合っているのかなと思うようになりました」。楽しむための自分なりの方法論を日頃から周りの人にも広めていて、その結果みんなが前に進んでいくのがまた楽しいのだという。困っている人や苦しんでいる人を助けるというマイナスを消していく役割が必要な一方、自身は、他の人が楽しく生きられるよう、「プラスの要素を足していく人でありたい」と思っている。

2017年1月インタビュー

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