シリコンバレー・サンフランシスコ研修2019(ヒューマンウェア・北米センター共催)

2019.02.25 

研修概要

2019年2月25日から3月7日にかけて,HW6期生の斎藤・吉村の2名がアメリカのサンフランシスコベイエリア (通称シリコンバレー,以下SV) およびロサンゼルス (以下LA) を訪問し,企業訪問研修を行いました.この研修では世界のイノベーションの発信地といっても過言ではないSV・LAで活躍している約15名の皆様にインタビューをさせていただき,

「なぜSVが世界のイノベーションの中心地となっているのか?」
「イノベーションを起こすためにはどのような人材が求められているのか?」

という疑問を調査しました.そして私たちが身につけるべき素養について考えることを目的としました.今回は,私たち(斎藤・吉村)が目で見て肌で感じたSVのエコシステムと活躍しているマインドセットに関して,多少主観的な部分も多いですがまとめました.少しでも多くの皆様と今回の研修で学んだことを共有できればと思います.

 

訪問先一覧

今回訪問させていただいた皆様は以下の通りです.

Apple Inc. (2名)
Google (2名)
Stanford大学 (1名)
Panasonic (3名)
MBC BioLab (1名)
大阪大学北米拠点 (2名)
Uber (1名)
Fujita Americas (2名)
TATA Consultancy Service (1名)
KPMG (1名)
[Meet Up] JSNC “Disruptive Transparency: Blockchain’s Impact on the US and Japan”
 (JSNC = Japan Society of North California)
[Meet Up] “
JSPS Abenomics in the 7th Year: Has it Worked?
(JSPS = 日本学術振興会)

今回の訪問において大阪大学北米拠点の長谷川先生・東澤コーディネータのお二方には,ご紹介および現地でのバックアップなど大変お世話になりました.「大阪大学北米拠点」は大阪大学の海外拠点の1つであり,現地でのネットワークの構築や留学生を含む私たちのような研修生とのバックアップを行ってくださる部署です.次節で詳しく触れますが,欧米文化はコミュニティのつながりが非常に強く,端的に言えば「一見さんお断り」の文化だと感じました.歴代の北米拠点の皆様がSVのネットワークの中に入り込んでくださっているからこそ,新参者の私たちが充実した研修を行う事ができました.

北米拠点は阪大生の中でも十分に知れ渡っているわけではなく,北米拠点から様々なサポートをしたくても学生へのコンタクトができない場合が多いそうです.この記事を読んでくださっている阪大生でサンフランシスコに行く事があれば,ぜひ行く前にコンタクトを取ることを強くお勧めします.

大阪大学北米拠点 HP
http://www.sf.overseas.osaka-u.ac.jp/

    

 

SVのエコシステム == 一見さんお断り==

閉鎖的コミュニティ文化

この訪問において最も強く印象に残ったことは「SVは閉鎖的」であるという点でした.訪問前は私はあらゆる場所であらゆる人がアイデアを出し合って無制限にコラボレーションをすることで,インパクトがあるアイデアが生まれてくると思っていました.しかし、訪問を通してこのシステムは信頼の上に成り立っており,コミュニティの内部だけで起きている現象だと感じました.「よそ者」と「仲間」の区別がはっきりしており,よそ者は基本的に相手にしてもらえません.コミュニティの中に入るためにネットワーキングや専門性,趣味など様々な努力が必要となっています.今回参加させていただいたようなMeetupに参加したり,趣味のテニスでコネクションを作っている方もいました.わかりやすい表現として,「テニスはPh.Dより役に立つ」というお話も聞きました(事実かどうかは別として).

産学連携と資金の循環 (1) = インキュベーション施設 =

一方でSVの成功は,この閉じたコミュニティの中で人材と資金が産学をまたいで健全に循環していることが重要な要素であると感じました.特にバイオベンチャーのインキュベーション施設 (複数の小規模ベンチャーにオフィスを貸し出し,支援を行う) を 訪問させていただいた時にそのように感じました.ライフサイエンスの研究を行うには高額な実験設備が必要です.しかし創業初期のベンチャー企業にはこの地価の高いSVでこのような設備を用意することが難しいため,このような施設が特に重宝されているとのことです.

このインキュベーション施設に入ってくるベンチャーは大学発のものが多いそうです.これは多くの企業が大学との直接的な共同研究において失敗を経験し,新技術の獲得のために研究への投資ではなくベンチャーの買収を選ぶことが多くなってきているためです.これに気付いた大学側は,ある程度技術が確立すれば 「ライセンス ⇒ スタートアップ ⇒ 買収」というサイクルを作り,買収後のライセンス料金で研究資金を確保する流れを作るようになっているのだと言います.また必ずしもスタートアップは成功するわけではないので,もし立ち行かなくなった場合は大学に戻るという流れもあるそうです.これは大学から企業へ資金と人材の両方が流れている一つの例だと思います.

産学連携と資金の循環 (2) = スタンフォード大学 =

SVにはStanfordとUCバークレーというCS系で著名な大学が2校立地しています.どちらの大学も画像処理の分野で世界トップクラスの研究室があります.Stanfordで研究をされている方によると,プロジェクトのためにこれらの研究室間で学生の移動 (取り合い) は珍しくないそうです.さらにこのトップレベルの教育を受けた学生は卒業後GoolgeやAppleなどSVの企業で活躍します.実際に今回お会いした方にも,このルートを辿っている方がいました.またStanfordは応用よりの研究が得意分野であり,企業からの資金集めがとても上手です.かなり特異な例ではありますが,今回訪問させていただいた研究室では学生にも自分で研究費を取ることが求められており,研究費を企業などから得られた学生には席が与えられるシステムがあるそうです.大学だけでなく学生にも、競争にさらされる中でビジネス的視点が求められており,在学していながら産業界の視点がある程度は身につくように感じました.

産学連携と資金の循環 (3) = まとめ =

伺ったお二人のお話から,産学が金銭面と人材面で深く連携していることが見て取れると思います.学生のうちから企業人的な視点が身につく環境が整っているように感じました.また優秀な人材はSVに集まったのち、残り続け,資金もSVの中で循環していることが世の中にインパクトがあるアイデアを次々と生み出していく根幹にあるものだと感じました.日本でもインキュベーションセンターの設立や大学初ベンチャーの推進が行われていますが,日本にはこの循環があるとは考えにくく,SV式をそのまま真似をするのではなく日本文化独自のアイデアが必要だと感じました.

ポイント

  • SV (欧米文化) はコミュニティ意識が強い.コミュニティの中に入れるか否かで,出来ること得られる情報が変わる.
  • 産学が経済と人材の両面において深く連携している.人と金はSVのエコシステムで循環している.
  • 大学 (先生と学生) もお金への嗅覚が鋭い.

吉村の一言

このSVのエコシステムを知ることができたことが,今回の訪問の最大の驚きであり,最大の学びだったと思います.まず「SVに行けばクリエイティビティに溢れた最高の環境がタダで転がっている」というのは幻想でした.まず現地で働けるだけの基礎的なスキルをつけるとともに,コミュニティに入るための趣味やコミュ力などの魅力を今から育てていかなければ行けないと感じました.具体的に何が魅力になるかはわからないので,まずはラボに引きこもることをやめて,今までやっていたスポーツや読書などの趣味を意識的に継続してやっていこうとおもいます.

齊藤の一言

日本では勤続数十年や会社の安定を求めることが多いと感じています(少なくとも私はそう感じていました).一方で,SVではレジュメ(履歴書)を充実させていくことで自身の価値を証明していきます.そのために,長くとも2.3年で転職し,それぞれの価値を高めていました.これはヒトの流動性だけでなく,企業の多様性を確保することにも寄与していました.この流れは企業だけでなく,大学内にも存在しており、優秀なヒトほど外に出す・連れてくるという流れが存在していました,

一つの場所に固執するのではなく,仕事を通して自身に対する価値をどれほど作れるのかは強く感じました.今回の研修を通して私自身新たな価値観を獲得できたと感じています.それは,外の景色に足を踏み込んだからこそ感じることができたので,意識を外に向けることは大変重要と感じました.

 

SVで活躍する人々 == SVマインドセット ==

今回お会いした方々のマインドセットは大きく2パターンに分類できるように感じました(大変主観的であることはお許しください).

Type.1: その時その時に面白いと思ったことを全力でやる方
Type.2: 環境を求めてきた方 (評価軸,子供の将来性)

今回お会いした方の中では,Type.1に分類すべき方々が圧倒的に多く感じました.その中のお二人に「最終的な目標はなにか?」という旨の質問をさせていただきました.するとお二人から「わからない」という答えが返ってきました (少し盛ってます).ただしこの後にほぼ必ず「やり始めたことは常に全力でやる」「次にやりたいことは,今全力でやっている事が終わるまで考えられない」という趣旨の言葉が続きます.これは私の主観的推測ではありますが,その時興味を持っていることを全力で突き詰めることでスキルアップをすることができ,結果として新たに熱意を傾けられる仕事にまた出会うことができているのだと思いました.

Type.2に分類すべき方は,アメリカの個性を尊重する教育および文化を求めている人とも言い換えることができると思います.日本とアメリカでは評価の観点が異なります.日本社会は出る釘は打たれるのが基本であり,日本で自分が評価される将来が描けなかったとおっしゃっていました.一方でアメリカは初等教育の段階から個性・主体性が尊重されます.突飛なアイデアもアメリカでは評価されやすい形になっているので,やりがいを感じられるそうです.また高齢化が進む日本社会への不安から,お子様にグローバルな競争力を身につけさせたいという観点からSVにきている方もいました.この方が求めているものも,英語と個性を尊重する教育だと思います.

ポイント

  • 面白いことを全力でやる.全力で取り組むことで新たなスキルを身につけルことができ,次の面白い事が見つかる.
  • 評価軸が日本とは異なり,「出る釘でも打たれない」

吉村の一言

次を考えられないほど今の仕事に熱中できるのは,幸せでありかつ重要なスキルだとおもいました(羨ましく思う).短絡的ではあるかもしれませんが,今私がやっている研究は将来性と楽しさが感じられるものなので,まずは今よりも全力でやれるところまで突き詰めていきたいと思います.

齊藤の一言

将来の設計を立てることはもちろん大事だが,その時その時を全力で取り組めているかは一番大事な要素と感じました.また,専門外の分野の話をキャッチアップして新しいアイデアがないか議論する「貪欲さ」や,大学で学んだ専門分野に固執せず外に飛び出す「思い切りの良さ」など成長を求め続けている点も重要な要素と感じました.

    

 

SVで求められる人材像 == SVで活躍するためには? ==

まず働き方の一般論として,以下の2パターンがあると思います.

Type.1: ジェネラリストとして働く方法
Type.2: スペシャリストとして働く方法

ソフトウェアエンジニアなどは多くの場合は,Type.1: ジェネラリストとして働くことになると思います.しかし,言うまでもありませんが,SVは非常に競争倍率が高いだけでなく,求められるレベルも極端に高いです.したがって,それ相当な理由がない限りは,ソフトウェアエンジニアとして信頼のあるStanford,UC バークレー,CMUなどの学生を差し置いて日本の学生を採用する理由は特にないのではないかと思います.その一方で,スペシャリストに関しては,今回お会いした方が口を揃えてこのようなことをおっしゃっていました.

「何か専門性を持っていればどこかで必要としている人がいる」

短絡的かもしれませんが,何かのスペシャリストとなることがSVで活躍するための良い選択肢だと言っていいのだと思います.専門性の担保として,Ph.Dと実務経験の2つがあるように思います.特に,Ph.Dは自分の立場をはっきりさせることができるという点で非常に有効であると感じました.

専門性を持つことは重要ですが,今回お会いした方のお話を聞くと,特に単なる専門性ではなく「二刀流」がこれからは求められると思われます.これには2つの理由があります.

  • 2つの専門性を持つことで競合相手が大幅に減る.
  • 新たなプロジェクトを行う上で異分野融合ができる思考力を持ったリーダーへの需要が高まる  (という予想)

これからはバイオとIT,建築とIoTなど大きく離れた分野の融合が進み,この異分野をつなぐことができる思考法が重要になってくるのではないかと言う話をお聞きしました.

また今回お会いした方の一人が次のようなことを仰っていました.

「ジェネラリストからはスターは生まれない、
スペシャリストからスターやイノベーションが生まれる」

それは言葉通りの意味でもありますが,同時にスペシャリストのところにしか人は集まらず,成功にもっていくだけの巻き込み力を有するのもまたスペシャリストだけであるという意味でお話しされていたのだと思います.社会に大きなインパクトを与える仕事をしたいのであれば,スペシャリストとなることは必須条件なのかもしれません.

ポイント

  • 専門性はどこかで必要としている人が必ずいる.また専門性の担保としてPh.Dは有効
  • 二刀流の専門家を目指すべし.競争相手が大幅に減る.異分野を組み合わせる力は今後重要な力となる.
吉村の一言

この異分野融合に関する思考力は,まさにHWIPで身につけることが求められている力の1つです.私が参加しているHWIPの良さを改めて確認できました.

ただし(誰も明にはおっしゃってはいませんでしたが),異分野を混ぜる上で「ユーザ視点のものづくり」と「企業として利益を出す」ことが思考の前提にあるように感じられました.大学の中だけにいては身に着けることが難しいので,自分で積極的に,ビジネスちっくな感覚を身につけるための,何らかのアクションを取っていきたいと思います.

齊藤の一言

求められる人物像を知るうえで、インターンシップの存在は切っても切り離せないものだと思います.

日本におけるインターンシップの役割は大概,就職活動の一部として短期の業務体験を通して企業側が学生に唾をつける意味合いがあると感じています.企業によっては採用者の9割がインターンシップ経験者の企業もあると聞きます.一方,シリコンバレーにおけるインターンシップはその企業におけるコネクションを作るという点では似ているのかもしれませんが,中長期にわたる具体的な業務を実際に行うところに違いがあると感じました.最も大きな違いは学生の主体的なインターンシップへの参加です.先にも述べたようにシリコンバレーで働くには経営者的視点(課題解決力)が大きく求められています.それを養う場としての企業のインターンシップは是が非でも参加したいものだと感じました.当然倍率もかなりのものになるがそれを超えた際の価値は大変大きいと感じました.

    

 

まとめ

今回の研修でSVを直接見る事で多くのことを学ぶ事ができました.快くインタビューを受けてくださった皆さんをはじめ,今回の研修をバックアップしてくださった大阪大学北米拠点の長谷川先生・東澤様,そしてヒューマンウェアプログラムに心より感謝を申し上げます.この他にも本当に多くの方の支援によって北米研修を実りあるものにすることができました.私は博士課程に進みたいと思いますが,もう一度自分の生活を見直し,今回の学びを最大限活かせるように努力をしたいと思います.