芝井 厚

第一期生

芝井 厚

情報科学研究科 バイオ情報工学専攻

インタビュー

10歳で考えた「生きているとはどういうことか」

将来の野望は3つあるという。「『生きているとはどういうことか』を知ること」「HWIPで得た縁を活かして起業し、100億円稼いで自前の研究所を作ること」「そこで研究を進めて機械の体を手に入れて不老不死となり、広い宇宙を探検すること」。

何をもって生きているとするのか、その定義に悩みはじめたのは10歳の頃だという。ロールプレイングゲーム「ファイナルファンタジーⅨ」(2000年)に登場する人造人間のキャラクターが「自分は生きているのか」と自問していたことが、この問題を考え始めるきっかけだったそうだ。

10代の頃、自分の存在に悶々としていた時期があった。「所詮我々も運動する粒子やろう、と」。そんな時、ドストエフスキーの『地下室の手記』を読んで衝撃を受けたそうだ。自意識にとらわれ、社会との関係を断って地下室にこもった、極端な自尊心と劣等感を持った男の独白だ。「何か鏡を見たような気分になって。初めて自分を客観視できたことで、すっきりして」。そこから、複雑系や、その他にも色々なものに関心を持つようになったそうだ。「いったんリセットして、癖のあるものばっかり取り入れていった結果」、今の自分に至っているのかもしれない、という。

もう1つ影響を受けたのが、たった1ページのカフカの短編『アブラハム』。世の退屈さを嘆くアブラハムは、世界が多彩であることを知らない。「自分は、多彩な色を見る側の人間でいこうと思った」。

細胞を少しずつ壊して「生命らしさ」の根源を探る

中学生の頃には、理学系の研究者になろうと決めていたという。物理や生物に関心があったが、複雑系の研究者であるスチュアート・カウフマンの著作に影響を受けて「生物の方が面白そう」と生命系の研究を志すことに決めた。どちらにしても工学の知識や技術は役立つであろうと、高等専門学校に進学した。

現在は大学院で、細菌を紫外線で少しずつ壊してより単純なものに進化させ続け、どこまで単純になると生物とはいえなくなるのか、その「生命らしさの尺度」を探る実験を進めている。研究室で従来から行っていた、非生命分子を組み合わせて人工細胞をつくって進化させ、生命機能の再現を目指すアプローチとは、真逆の方向だ。

「正攻法はしない」というモットーに沿った研究戦略である。

制作した実験装置

研究当初は、細菌が増えてきたら適切な量の紫外線をあてて変異を起こさせるという実験サイクルを維持するために、毎日2、3時間の作業が必要だった。そこで頼み込んで、実験を自動化する装置を手作りし、4日に1回1時間の作業で実験が進められるように合理化した。装置はラボの他の研究にも使われるようになり、研究室の生産性がずいぶん向上したそうだ。高専で培った工学の技術が活きた。

実家は祖父の代まで洋菓子屋。引き継いだ業務用のレシピなどをもとに独学し、下宿にオーブンや調理器具をそろえてタルトなどを作っている。「料理が上手な人は実験もうまいと言われています。どちらも段取りが重要です」。

カラフルで躍動的な世の中にしたい

起業を目指した準備も進めている。HWIPの仲間と一緒に、学生・研究者の研究事業化をサポートするために阪大が設けた「EDGEプログラム」の資金を得たり、学外でスタートアップ支援のプロから新規事業の立ち上げについて教わったり、独学で経営や会社設立に関する本を読んだりしている。起業は、現在の研究テーマとは関係なく、世の中のニーズを読んで、必要とされるものを売り出す方向で考えている。その先に抱いているのは、「起業して稼いで、山奥に施設をつくって不老不死の研究をする」という野望だ。

「世の中を、カラフルで躍動的になる方向に進められれば嬉しい」。

2016年12月インタビュー