「脳細胞の見る絵」を探る

専門の幅を広げるには、
相手の懐に飛び込むつもりで。

大澤 五住 教授

Ohzawa, Izumi

生命機能研究科 視覚神経科学講座

大澤 五住 教授

大澤教授は、もともと電子工学出身。その後、脳科学へと専門領域を拡大した。教授によれば、電子工学と脳科学は意外と近い。というのも、脳はどうやってものを見ているのかへのアプローチは、テレビやカメラの画像処理技術に近い部分があるからだ。

脳細胞1個が見るものを、定量的に調べる

私は「外界からの視覚刺激が、眼に、そして脳細胞に伝えられたときに、1個の脳細胞は何を見ているのか」を定量的に表すことをめざして研究に取り組んでいます。1個の細胞が見ているものは、情景の断片にすぎないのですが、それは写真をはさみで細かく切り刻むのとは違う、複雑な別のやり方で細分されたものです。これを「このようにばらばらにしている」と、コンピュータで再現できるほどに説明できれば、応用も利くわけです。

osawa2

一次視覚野から出発して、高次のレベルへ

研究室では、視覚の刺激を動物に見せ、見ている最中の動物の脳細胞ひとつひとつの反応をコンピュータで解析しています。過去の研究によって、おおよそどんなパターンを見せれば、細胞がよく反応するのかは分かっています。その画像は縞模様です。細胞によって、好きな縞模様の角度などが違います。また、細胞によって見ている場所も違います。だいたい一円玉の直径くらいしか見ていません。ですから、動物に画像を見せるときには、ひとつひとつの細胞にとってどんな刺激が最も効果的なのかを特定しなくてはいけません。
脳細胞が何を見ているかについて第一次視覚野のレベルでは、ある程度分かってきました。そこで私たちは、さらに高次な第二次視覚野、第四次視覚野へと研究を進めたいと考えています。原始的な要素を表現する細胞があるのだから、これらをグループとしてまとめあげる細胞もあるでしょう。このような高次の細胞は、どんな形や要素に反応するのか。これを直接測れれば、いろいろなことが分かってくるのではと思います。

電子工学と脳科学

大学では電子工学を学び、脳科学には偶然留学先で出会いました。細胞の反応を記録しているところを見て、おもしろいと思ったことが最初のきっかけです。さらにそれが、規則的な刺激を見せると、「脳という得体の知れないもの」に対して持っていたイメージよりは規則的に反応するという実験だったので、「私に近い研究では」と興味がわきました。
電子工学はテクノロジー、脳科学はバイオ系。ずいぶん遠いように思われる人もいるかも知れませんが、実はそうではないのです。私は電子工学の世界と脳科学の世界は、結構近いと思っています。テレビやカメラなどの画像処理に関心がある人なら、脳がどうやってものを見ているのだろうと考えるのは、ごく自然なことだと思います。

新しい分野は、新しい言葉で理解する

osawa3ヒューマンウェアイノベーションプログラムでは、例えば、物理やコンピュータ好きな人が、生命に関係した研究を行うことができます。その場合に気をつけるべきなのは、「自分の土俵は工学だから」と、自分が慣れ親しんだ研究の方に引きつけ過ぎてはいけないということです。自分がこれまで学んできたものはひとまず置いておいて、相手の懐に飛び込んでみることが必要だと思います。
実際に研究が進んでくると、学部までで学んだことは絶対に無駄にはなりません。しかし初めは、「新しい分野の人たちの言葉で話し、その言葉で理解する」という考え方をとるべきです。別の考え方へと専門を広げるときには、その人たちの言葉を学ぶことが大切だと思います。せっかくの機会ですから、新しい考えをどんどん自分の中に取り入れてください。

研究室のホームページはこちらから